原材料
煤(すす)
煤は、木や油などを燃やした際に出る黒い煙の成分である。炭素、水素、酸素、窒素などから成る有機化合物を不完全燃焼時にできる黒色の微粉末物質である。
膠(にかわ)
膠は、牛、豚、魚などの皮を煮て得られる。化学的にいうとコラーゲンと呼ばれるタンパク質である。また、濃色で不透明である膠を精製し、淡色、透明のものとしたゼラチンは、食品、医薬品、化粧品などといった分野で利用されている。
香料
香料は、膠の匂いを消すとともに、使う人の気持ちを落ち着かせるために用いられる。墨の香料は、側に置いておくと、そこはかとなく香りが漂ってくる「幽香」が用いられる。以前は、天然香料である麝香(じゃこう)、竜脳(りゅうのう)、白壇(びゃくだん)、甘松末、梅花などが用いられた。現在は、合成香料の麝香、梅花などが普及し、使用される。
作り方
墨は、まず煙煤と膠をよく練り合わせ、麝香、龍脳、梅花香などの香料を加える。次に木型に入れて形を作る。形ができたら、木型から取り出して乾燥させて作る。
工程1
煙煤と膠をよく練りあわせる。
工程2
麝香、龍脳、梅花香といった香料を加え、木型に入れて形を作る。
工程3
木型から取り出して乾燥させる。
煙煤と膠の割合、練り合わせ具合などの職人の技量により、墨質は大きく左右される。
種類
墨は、原料とする煙煤の種類によって、「松煙墨」と「油煙墨」に分けられる。
松煙墨(青墨)
松煙墨は、松の樹の煙煤を原料とし、松の木片を燃焼させて採取した煤(すす)を用いて作られた墨である。松煙は、燃焼温度にムラがあり、粒子の大きさが均一ではない。そのため、黒味を帯びた色から青灰色に至るまで墨色に幅があることが特徴である。また、松煙墨が枯れてくるにつれて、青味が強くなり、「青墨(せいぼく)」と呼ばれる。濃くすると艶がなくザラザラした感じとなるため、主に淡墨にして用いられる。雨風に弱いことも特徴である。
油煙墨
油煙墨は、菜種油・胡麻油・大豆油・綿実油などの植物性の油から取れる煙煤を原料とする。土器の中に油を入れ、灯芯をともすことで土器の蓋にできる煤を用いて作られた墨である。油煙は、煤の粒子が細かく均一であるため、黒色に光沢と深みがあることが特徴である。淡墨より濃い墨のほうが向いている。また、松煙墨と違い、雨風に強いことも特徴である。